教育学部
倉田薫子,河内啓成,小林大介,高芝麻子,原口健一,物部博文
概要
生物多様性保全は世界的にも大きな課題となっており,生物多様性条約締約国会議(COP15,2022年12月)において,新たな生物多様性に関する世界目標(ポスト2020生物多様性枠組)である「昆明-モントリオール生物多様性条約」が締結されたことは記憶に新しい。日本でも「生物多様性基本法(2009)」や「生物多様性国家戦略2012-2020」が施行され,COP15を受けて次期国家戦略が現在策定中である。
しかし学校現場では,一部の生き物好きな先生が生物を飼ったり,総合学習などでテーマとして扱ったりしているものの,個人的な取り組みとして認知されるにとどまっている。その背景として,教師自身の生物多様性への理解の不足や,実際に取り組んだ経験の乏しさが挙げられる。
本取り組みは学部の教員養成の一環として,里山でのさまざまな体験活動に基づいて生物多様性の理解を深め,具体的に学習を指導できるようなスキルの獲得と,問題意識のつながりを発見することを目的に行っている。生物多様性は単独では理解されにくく,どことなく他人事としてステレオタイプな知識で語られることが多い。そこで教育学部の強みでもある多様な専門性をもった教員集団が,文化的側面,特に生活文化に密着したものづくりを軸とした体験活動を展開することにより,「人間と生物圏(Man and the Biosphere, UNESCO MAB Program)」の考え方に則って持続可能な社会の創り手を育成することを意識している。
2022年度は,関係する教員と学生有志で「Team竹」を組織し,大学内にある竹林の管理作業と,そこから切り出せる材を利用した諸活動を実施した。またこれをベースに,里山に関連する学習活動を学部授業の一環として取り入れ,机上にとどまらないESD構築の初歩を体験した。また自身の経験を活かして子ども向けのワークショップ(保土ヶ谷区地域連携事業と連携)で指導補助を行い,教育活動へとつなげることができた。これを「里山実践モデル」として次年度さらに拡充予定である。学生からは道具の使い方,竹林管理の意義や方法,取れた材を活用することによってさまざまな活動につながること,さらには他の分野におけるESDを考案したいという意欲の上昇も見られた。
今後は,一つずつの活動の体験を積み重ねる中で,学生たちが生物多様性の理解を深め,具体的に学習を指導できるようなスキルの獲得と,問題意識のつながりを発見するための,教員養成に資する長期的な視点に立った取り組みを進めていきたい。
特徴・効果・独創的な点
- 日本の伝統的文化や現代の生活文化に体験的に触れながら,その背景にある生物多様性を理解できる
- 環境共生社会「里山」のしくみを理解し,持続可能な社会に対して教育の中で取り組めることを自発的に考え出すことができるようになる
- 「生物多様性4つの危機」の1つにも挙げられている「アンダーユース(自然への働きかけの減少)」に対応する管理技術の獲得ができる
適用分野・用途
- 総合学習,特に生物文化多様性にかかわる諸活動
- 地域文化理解,地域創生などの社会課題への発展
- 里山の再生・維持による生物多様性保全
※学部教育を超えた取り組みについてはこちらのページにて紹介しています。
横浜国立大学令和4年度YNU研究拠点活動支援事業(若手)採択グループ
「人間と生物圏」共生を基軸としたESD研究拠点(里山ESD Base)
https://satoyama-esd.ynu.ac.jp/