EDUCATION&RESEARCH

教育・研究

真正の「共生体育」をつくる

教育学部  梅澤 秋久


概要

気候変動やコロナパンデミック,紛争等の世界規模のアポリアの連続は,刹那的で利己的な価値観の終焉を指南する。持続可能性が希求される中,SDGsの第3目標は「Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)」であり,第4目標は「Quality Education(質の高い教育を)」である。総じて体育の分野での貢献が期待される目標であるが,その共通点は「全ての人」,「Inclusion包摂」,「公正」「Well-being」等であろう。いみじくも「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」(2015)の改定の要点,「良質の体育Quality of PEガイドライン」(2015)の中核はInclusion包摂である。

日本の「体育」は,明治時代以降,富国強兵(兵式体操),殖産興業の教科としての歴史を有している。すなわち,軍事力や肉体の強化のための教科としての成立である。ポストモダン期に入ると体育/保健体育科は生涯スポーツのための教科として台頭する。他方で「スポーツマン的教師像」たる体育教員によって,競争と達成の論理を基盤に「目標—達成—評価」型のカリキュラム実践が未だに学校現場に蔓延っている。

現行の学習指導要領(2017,2018)の体育/保健体育では,ともに学び育つ対象を全ての多様性とし,障害の有無,ジェンダー,運動格差,(年齢差:小学校のみ)等の格差を包摂する「共生体育」が希求されている(画像1,拙著)。

一過性の勝利や達成に依拠する「今だけ,ここだけ,私だけ」という快楽主義(ヘドニア)的な思想から,「今−ここ−わたしたち」による「スポーツ運動」への没頭(Engagement)を通じた,よい関係構築(Relationship),意味(Meaning),達成(Accomplishment)という持続的Well-beingをつくりあう体育の在り方が重要になっている。

そのような共生的でウェル・ビーイングな体育を探究するためには教師集団も同僚性を基盤とし,ともに学び育つ必要がある。

特徴,効果,独創的な点

  • 共生社会に向けた人間性の涵養
  • 市民性教育としての体育の再構築
  • 多様性を包摂するアダプテーション・ルール創造における思考力・判断力の育成と共に合意形成に関する資質・能力の育成

適用分野,用途

  •  良質の体育科教育の推進
  •   共生(インクルーシブ)の体育の教材開発
  •   ウェル・ビーイングに資する体育へのアップデート
画像1 『真正の「共生体育」をつくる』
画像2 附属鎌倉小での電動車椅子サッカーのリバースインテグレーション
画像3 附属横浜中での球技(サッカー)性差のインクルージョン
画像4 附属横浜小での1年生のゴール型ゲーム低学年からの身体リテラシーの育成