EDUCATION&RESEARCH

教育・研究

教育現場における熱中症予防システムの構築とその効果検証

教育学部 薩本弥生
教育学部 田中英登
都市科学部 田中稲子


概要

夏季を中心に熱中症が毎年多数報告されており、総務省によると令和4年6月の全国における熱中症による救急搬送人員は15969人で、昨年の4945人に比べ約3倍増加し、平成22 年6月からの調査開始以降、過去最多の搬送人員数であった。地球温暖化により、夏季の熱中症リスクが高まっていることが危惧される。10代ではスポーツ時の熱中症が最も多い。一方、熱中症を予防するには暑さを避け、こまめに水分を補給し、急に暑くなる日には注意することなどが必要とされているが、体育の授業や部活動、サークル活動等、実際の教育活動の現場では、厳しい暑熱環境下でもスポーツが行われている現状がある。一方、暑熱馴化が十分でない春先には比較的温暖な温度域で熱中症を発症する事例もある。

そこで熱中症予防のためには温熱環境の客観把握が重要である。そこで、本プロジェクトでは、2013年から屋外・屋内での運動中の熱中症予防のために南地区運動場、体育館、テニスコートの3箇所にWBGT計測機を設置し、活動を行ってきた。今年度は経年による老朽化により計測器を総入れ替えした。現在、テニスコートは記録のみ、運動場、体育館は図1のような無線で受信できるシステムを構築した。熱中症リスクは表1に示すようにWBGT値より5段階の警戒レベルで示されている。このうち警報レベル4に至ったら激しい運動は中止するレベルになるため、4以上で予め登録されているスマホに図2に示すような熱中症予防警報が配信される。猛暑下では10時頃までにレベル5になるため、12時以降は2時間ごとに定時に警報メールを配信した。

また、学生支援課の協力の下、体育系部活動の部長・マネージャに協力を募り、図3に示すようにアンケートを行い、下記のスポーツ時の環境把握と警報メールの効果検証を行った。調査内容は活動量(かなりハード⇔ソフトの5段階)、主観(快適感、温霊感、湿潤感、べとつき感、蒸れ感各々5段階)、警報メールの配信内容と主観の一致度(主観より低い⇔主観より高いの5段階)、水分補給の頻度(5段階)、活動場所(屋内・屋外)、着衣量を共通項目にし、運動者に活動時間、着衣の素材、休憩の頻度である。

特徴,効果,独創的な点

  •  体育や部活動中の温熱環境の熱中症リスクをリアルタイムで客観把握できる
  •   熱中症の発症を未然に防ぐことに寄与する
表1 WBGTによる熱中症環境指標
日本体育協会(2006) 熱中症予防のための運動指針表、暑熱順化・年齢・着衣を考慮した熱中症予防指針より

結果と考察

警戒レベルが運動者の主観と合致するかどうかを検証した結果を図4に示す。部活毎にみると女子ラクロス部・テニス部・陸上部は警戒レベルと主観は概ね合致していた。一方、剣道部・野球部は主観よりも低いと回答する者の割合が他の部活よりも多かった。剣道部・野球部の共通点と他の部活との相違点をみると、顕著なものは着衣状況であった。他の部活が軽装で運動を行っているのに対し、この2つの部活は長袖・長ズボンおよび、半そで・長ズボンの割合が高く、被覆面積が大きい。さらに防具の着用者は剣道部で顕著に高い。また、活動量に関しても、ハードと回答する者が多い。女子ラクロス部・陸上部もハードと回答している者が多かったが、着衣状況は夏期らしく軽装であった。激しい運動および熱の逃げにくい着衣状況がWBGTの警戒レベルと主観との乖離を生み出していると推察される。

まとめ

この調査により、各暑熱環境下の課外活動時の着衣や休憩、飲水の頻度などの実態把握をすることができた。特に着衣の被覆面積が大きい部活動では警報メールよりも主観がより厳しく、改善の余地がある。より有効なシステムとなるように改善したい。実習や運動中には、様々な事故の起きるリスクがある。また、着衣や運動強度によっては同様のリスクが生じやすいため、感覚だけに頼らない温熱環境の客観的な把握は重要な指針になると考えられ、一人でも多くの方に警報メールの配信登録を勧めたいと思う。

図1 警報メールの配信システム

熱中症危険度 レベル4 WBGT 30℃

WBGT1 設置名称:体育館
厳重警戒
運動時:持久走など激しい運動は避ける
日常生活:外出時は炎天下を避け,室内では室温の上昇に注意する。
頻繁な休息と水分・塩分補給の徹底!
激しい運動は中止!

図2 警報メール配信内容の例と配信のタイミングのイメージ

※各部活動の配信メール転送担当者からのメッセージ
部活動中の活動状況・服装等に関する調査への協力お願いします。
部活動中の活動状況・服装等に関する調査URLと QRコード

https://forms.office.com/・・・・・・

本日の部活動中の警報メールの警報レベルはWBGT 〇℃でした。

図3 警報メール配信内容の例

図4 各部活の警戒レベルと主観の適合具合の比較